浦和地方裁判所 昭和36年(行)4号 判決 1962年2月15日
埼玉県狭山市大字上赤坂二一八番地
原告
小沢潤一
右訴訟代理人弁護士
中条政好
同
小川栄吉
同
上野忠義
埼玉県川越市宮下町五四一番地
被告
川越税務署長 田中文三
右指定代理人
加藤宏
同
多賀谷恒八
同
植竹徳次郎
同
人見勉
同
原田喜一
同
佐藤貞貴知
右当事者間の昭和三〇年度分所得税更正決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、「被告が原告に対し、昭和三四年三月一〇日附を以てなした、昭和三〇年度分不動産所得金額一六、二四五円、農業所得金額四五三、三六五円、税額九〇、五五〇円、加算税額四、五〇〇円とする更正処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、
「原告は被告に対し、昭和三〇年度分所得金額を申告したところ、被告は昭和三四年三月一〇日附を以て前記のとおりの更正をなしたが、同年度の原告の所得は申告のとおりであつて、更正額は過当である。よつて右更正処分の取消を求めるため本訴に及んだものである。」と述べ、
被告指定代理人は、「本件訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、本案前の抗弁として、
「本件訴は、所得税法第五一条に規定する要件を欠く不適法のものである。
すなわち、被告は原告に対し、その主張のごとき昭和三〇年度分所得税の更正をなし、その旨の通知書を昭和三四年三月一〇日附で翌一一日書留郵便を以て原告宛に発送し、右通知書は同月一二日狭山郵便局配達人橋場儀助により原告本人に手交された。ところが、原告本人は右橋場に対し『税務署のものではごめんだから戻してもらいたい。』と言つて、その受領を拒否した。右橋場は返戻の符箋用紙を用意していなかつたため、これを持ち帰り、同月一四日原告方で原告より受領拒絶の旨の捺印をもらい、かくして右通知書は同月一六日被告方に返送された。
以上のごとく原告は昭和三〇年度分所得税の更正通知書の受領を拒絶したが、しかしそのことによつて所得税法第四四条第七項に規定する通知の効力に何ら影響を及ぼすものでなく、前記更正処分の効力は、原告がこれを了知すべき状態におかれた昭和三四年三月一二日に発生したものである。
しかも原告は、右通知を受けた日の三日後の昭和三四年三月一五日、昭和三三年度分所得税の確定申告提出のため川越税務署に出頭した際、同署係員長岡四郎事務官より右処分通知の内容について説明をうけているのである。
しかるに右更正処分に対し、原告が再調査の請求書を被告に提出したのは、所得税法第四八条第一項所定の期間を経過した昭和三四年九月二二日である。
同請求書は、三ケ月経過したことにより関東信越国税局長に対し審査の請求があつたものとみなされたが、同局長は期間後になされた請求として昭和三五年一二月二日附でこれを却下し、その旨原告に通知した。
以上の次第で、原告の本件訴は所得税法第五一条所定の手続を経ない不適法のものであり、却下されるべきである。」と述べ、
原告訴訟代理人は、右抗弁事実に対し、
「被告主張の抗弁事実中、原告が昭和三四年三月一五日、川越税務署係員より処分通知の内容について説明をうけているという部分は否認するが、その余の事実はすべて認める。原告は、昭和三四年九月一六日川越税務署において、はじめて右処分の通知書の写を交付され、かねて受領拒絶していた郵便物が更正通知書であつたことを知つたのである。」と述べた。
理由
被告主張の本案前の抗弁について判断するに、被告が原告に対し原告主張のごとき昭和三〇年度分所得税の更正をなし、その旨通知書を、昭和三四年三月一〇日附で翌一一日書留郵便を以て原告宛に発送し、これらは同月一二日郵便配達人により原告本人に手交されたところ、同人は配達人に対し「税務署のものではごめんだから戻してもらいたい。」と言つて、その受領を拒否したこと、原告が右更正に対し、再調査の請求書を被告に提出したのは所得税法第四八条第一項所定の期間を経過した同年九月二二日であること、右再審査の請求書は、三ケ月経過したことにより関東信越国税局長に対し審査の請求があつたものとみなされたが、同局長は期間後になされた請求として昭和三五年一二月二日附でこれを却下し、その旨原告に通知したことはいずれも当事者間に争いない。
しかして所得税法第五一条第一項が、訴の前提要件となしている同法第四九条第六項による決定とは、請求が本案について裁決をうけた場合であることを要し、右のごとく請求が期間経過後になされたものとして却下されたような場合は、これに含まれないと解される。したがつて、右昭和三〇年度分所得税更正の取消を求める本件訴は、所得税法第五一条第一項の要件を欠き、不適法であるといわねばならない。
よつて本件訴を却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 浅賀栄 裁判官 西塚静子 裁判官 羽生雅則)